はじめに
流体力学や配管設計では、粘度(μ)と動粘度(ν) という2つの物性値が頻繁に登場します。どちらも「流体の流れにくさ」を表す指標ですが、定義が異なり、使う場面も違います。
また、これらの値はレイノルズ数の計算を通じて、配管の圧損計算に直接影響します。このページでは粘度と動粘度の違いを整理し、圧損計算との関係まで解説します。
粘度(絶対粘度)とは?
粘度の定義と単位
粘度(Viscosity)は、流体の「ねばりけ」を表す物性値で、絶対粘度とも呼ばれます。流体がせん断力(層同士がずれ動こうとする力)を受けたとき、そのずれに対してどれだけ抵抗するかを数値化したものです。
- :せん断応力 [Pa]
- :粘度 [Pa·s]
- :速度勾配(流速の変化率)[1/s]
単位はPa·s(パスカル秒)またはN·s/m²で、古い資料ではP(ポアズ)やcP(センチポアズ)が使われることもあります(1 cP = 0.001 Pa·s)。
粘度が生じる物理的なメカニズム
粘度は流体の分子間の相互作用から生じます。
液体の場合: 分子同士が近接して引力(凝集力)で引き合っているため、隣り合う分子層がずれようとすると大きな抵抗が生じます。これが液体の粘度の起源です。
気体の場合: 分子間距離が大きく凝集力はほぼありませんが、隣り合う気体層で分子が激しく運動しているため、層間で運動量が交換されることで粘度が生じます。気体の粘度は液体の1/100〜1/1000程度と小さいのは、この凝集力の有無が主な理由です。
液体と気体で粘度はなぜ違う?
液体と気体では粘度の大きさと温度依存性が逆方向になります。
| 液体 | 気体 | |
|---|---|---|
| 粘度の大きさ | 大きい(10⁻³ Pa·s程度) | 小さい(10⁻⁵ Pa·s程度) |
| 温度上昇による変化 | 低下(凝集力が弱まるため) | 増加(分子衝突が増えるため) |
水の粘度は20℃で1.0×10⁻³ Pa·sですが、80℃では約0.35×10⁻³ Pa·sまで低下します。空気は20℃で1.81×10⁻⁵ Pa·sですが、温度が上がるとわずかに増加します。
粘度の目安

参考:キーエンスHP
粘度は温度によって大きく変化します。特に液体では温度変化の影響が顕著で、設計時には使用温度条件での粘度を確認することが重要です。
詳細の値については、下記のリンクにまとめました。

動粘度とは?
動粘度の定義と単位
動粘度(Kinematic Viscosity)は、粘度を密度で割った値です。
- :動粘度 [m²/s]
- :粘度 [Pa·s]
- :流体密度 [kg/m³]
単位はm²/s(または古い資料ではSt(ストークス)やcSt(センチストークス)、1 cSt = 10⁻⁶ m²/s)です。
動粘度は「流体が自重で流れるときの流れやすさ」を表しており、密度の効果も含んでいます。例えば水と空気を比べると、粘度は水の方が50〜100倍大きいですが、密度も水の方が約800倍大きいため、動粘度では空気の方が約10倍大きくなります。
粘度と動粘度の使い分け
| 場面 | 使う物性値 |
|---|---|
| レイノルズ数の計算 | 動粘度ν |
| せん断応力・ポンプ軸動力の計算 | 粘度μ |
| 流体物性値の参照・比較 | どちらも使用 |
実用的には、レイノルズ数計算には動粘度νを使う場面が多いため、まず動粘度を確認する習慣をつけておくと便利です。
粘度と動粘度の違い
| 項目 | 粘度(μ) | 動粘度(ν) |
|---|---|---|
| 別名 | 絶対粘度 | 運動粘度 |
| 定義 | 流体の「ねばりけ」そのもの | 粘度を密度で割った値 |
| 単位 | Pa·s | m²/s |
| 計算式 | — | ν=μ/ρ |
| 主な用途 | せん断応力・ポンプ動力の計算 | レイノルズ数・圧損評価 |
| 温度依存性(液体) | 温度上昇で低下 | 温度上昇で低下 |
| 温度依存性(気体) | 温度上昇で増加 | 温度上昇で増加 |
圧損との関係
レイノルズ数と流れの状態判定
圧損を計算する前に、まず流れが層流か乱流かを判定する必要があります。この判定に使われるのがレイノルズ数(Re)で、動粘度νを使って次のように計算します。
- :流速 [m/s]
- :管の水力直径 [m]
- :動粘度 [m²/s]
| レイノルズ数 | 流れの状態 |
|---|---|
| Re < 2,300 | 層流 |
| 2,300 ≦ Re ≦ 4,000 | 遷移領域 |
| Re > 4,000 | 乱流 |
動粘度が大きいほどReが小さくなり、層流になりやすいことが分かります。高粘度の油や冷たい水では層流になりやすく、低粘度の気体や高温の液体では乱流になりやすい傾向があります。
→ レイノルズ数計算ツール|層流・乱流判定を簡単にオンライン計算
層流と乱流で圧損計算式がどう変わる?
直管部の圧損はダーシー・ワイスバッハの式で計算しますが、その中の摩擦係数fがReによって変わります。
- 層流(Re < 2,300)の場合: (ハーゲン・ポアズイユの式)。
- 乱流(Re > 4,000)の場合: スワミー・ジェインの式などの実験式でfを算出。
つまり同じ流量でも、流体の粘度・密度が変わるとReが変わり、摩擦係数fも変わり、圧損が変化します。流体の物性値(粘度・密度)を正確に把握することが、圧損計算の精度に直結する理由がここにあります。
各形状の圧損計算については、以下のツールをご活用ください。
→ 圧損計算ツールまとめ|直管・曲管・オリフィス・急拡大縮小・入口出口

