はじめに
燃料電池は、水素と酸素の化学反応を利用して電気を生み出すクリーンな電源です。しかし、理論上の最大電圧(理論電圧)と、実際に取り出せる電圧(実効電圧)は一致しません。
その理由は主に次の3つです:
- 内部抵抗(オーム損失):電解質や電極、接続部分での電圧降下
- 活性化過電圧:電極表面での化学反応速度の制限
- 濃度過電圧(輸送損失):高電流時に反応物が電極に届きにくくなる影響
この記事では、これらの要素を考慮した 実効電圧を計算・可視化できるツール を紹介します。
実効電圧の計算方法
燃料電池の実効電圧は次の式で表せます:
Veff = Vtheo − I·Rint − ηact − ηconc
- Vtheo:理論電圧
- I·Rint:内部抵抗による電圧降下
- ηact:活性化過電圧(低電流領域で支配的)
- ηconc:濃度過電圧(高電流領域で支配的)
内部抵抗(IRドロップ)の補正
セルの内部抵抗は、交流高周波インピーダンス法によって測定できます。この抵抗値に電流を掛けたものが IR 降下であり、測定電圧から差し引くことで IR-free 電圧を得ます。
活性化過電圧の推定
低電流密度領域では、反応速度の律速による活性化過電圧が支配的です。IR-free 電圧からこの領域のデータを取り出し、ターフェル式
ηact = a + b log(i)
にフィッティングすることで、係数 a, b を求められます。 詳細な解析方法は、活性化過電圧の解説記事 をご覧ください。
濃度過電圧の推定
高電流密度領域では、電極近傍での拡散限界により濃度過電圧が現れます。このとき電流は限界電流密度 iL に近づき、次のように表されます:
ηconc = – c · log(1 − i / iL)
実験データから限界電流密度 iL を推定し、係数 c をフィッティングすることで濃度過電圧を評価できます。 詳細な解析方法は、濃度過電圧の解説記事 をご覧ください。
🔧実効電圧の可視化ツール
入力項目
- 理論電圧 Vtheo
- 内部抵抗 Rint
- 活性化過電圧係数 a, b
- 濃度過電圧係数 c
- 限界電流密度 \(j_L \)
- 最大電流 \( j_\text{max} \)(グラフ描画用)
- グラフ点数
出力
- 電流に対する実効電圧のグラフ
- 電流と電圧の数値表
ツールの特徴
- 内部抵抗・過電圧を考慮した現実的な電圧計算
- 電流増加による電圧降下を直感的にグラフ表示
- 教育・研究・学習に最適
- パラメータを変えて性能改善効果も確認可能
まとめ
燃料電池の理論電圧だけでなく、内部抵抗や過電圧を考慮した実効電圧を理解することが重要です。このツールを使えば、内部抵抗(交流高周波で測定)、活性化過電圧(a,bフィッティング)、濃度過電圧(cと限界電流密度フィッティング) を含めた電流–電圧特性を簡単に確認できます。
燃料電池の設計や評価を進める上で、シミュレーションや教育用に役立つはずです。